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エドワード・スノーデン氏強制送還検討 ロシア→米国

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プーチン・ロシア大統領
ロシア国内に亡命中の元米国家安全保障局(NSA)局員、エドワード・スノーデン氏を
トランプ米大統領に引き渡し検討。



本件に至るまでの経緯

2013年6月
NSAとCIAの局員として活動していたスノーデン氏は、英国の特務機関のインターネットでの追跡プログラムに関する一連の資料を手渡し、その個人情報収集の手口をワシントンポスト紙、ガーディアン紙などに告発。米司法当局はスパイなどの容疑で、スノーデン氏が逃亡していた香港政府に逮捕を要請した。そこからモスクワへ移動すると国際空港のトランジットゾーンにしばらくの間滞在していた。
アメリカがスノーデン氏のパスポートを無効にしたため、そのままとどまらざるを得なくなった。
その後、ロシア政府はスノーデン氏に米国に反対する活動を停止することを条件に1年を期限とする一事的な亡命を許可した。

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2014年8月1日
スノーデン氏には3年の期限で居住許可が下り、これによってロシア国内のみならず外国への移動も可能となった。


2017年1月
ロシアでの在留許可が2020年まで延長。



インターネット研究者やセキュリティリサーチャー、人権保護団体やハクティビストの多くは
「世紀の偉業を成し遂げた人物」と見なし、「良心に従って世界中のネット市民の人権を守った英雄」「インターネットの構造そのものを救った男」など、さまざまな言葉で讃えている。

その一方で、「諜報機関の機密情報を暴露した米国の裏切り者」「ネット市民の不安を無意味に煽り、混乱をもたらした犯罪者」という意見もある。「立派なことを言っているが、米国より監視の厳しいロシアに亡命した彼の言葉には説得力がない」「目立ちたがり屋のアナーキストに世界が振り回されただけ」など、彼の行動を疑問視する声もある。



ロシアでの生活

スノーデン氏がどこに住んでいるのかは明らかにされていない。報道によれば、モスクワ市またはモスクワ州である。ロシア国内を旅行することは可能で、アメリカの週刊誌「ネーション」の2014年10月のインタビューで、サンクトペテルブルクに行き、とても気に入ったと話している。

ロシアに定住する気はまったくないという。
スノーデン氏はインターネット上で活動し、収入を得ている。インターネットで公開講演を行ったり、インターネット上のジャーナリストの安全性を高めるツールを開発したりしている。ロシアに来たことで、家族や近しい友人と疎遠になっているということはなく、恋人のリンジー・ミルズさんは2014年にロシアに移住し、同居している。父のロニー・スノーデンさんも2013年10月にロシアを訪問している。




本件の経緯

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2016年3月 米国 共和党討論会
トランプ大統領
「スノーデンはスパイなので取り戻さなければならない。ロシアが米国を尊重しているのなら、彼をすぐ米国に引き渡したはずだ。」

2013年 米FOXニュースの番組
トランプ大統領
「彼はとんでもない裏切り者だと思うね。強国なら、古き良き時代にどうしていたと思う? 裏切り者がどんな目にあったのか、知っているだろ?スノーデンは死刑に処すべきスパイだ。しかし、もしスノーデンがオバマ政権の記録を明らかにするなら、私は大ファンになるかもな。」


2016年2月 米テレビ局「C-Span」のインタビュー番組
ポンペオ次期CIA長官
「彼(スノーデン)はロシアから連れ戻されて適正な法の手続きを受ける必要がある。私が思うに、彼は死刑の判決を受けるのがふさわしいだろう。」




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2016年12月 米テレビ局のインタビュー
エドワード・スノーデン氏
「(ロシアが引き渡すとすれば)私がクレムリンの人権政策を批判したり、米大統領選でロシア当局が米国にハッキングを仕掛けたと指摘したからではないか。」

エドワード・スノーデン氏
「プーチン大統領は、これがトランプ大統領の機嫌を取る方法だと考えているのでしょう。これで自分がロシア情報当局の協力者でないことを証明できた。ちょっと勇気付けられていますよ。『この男はロシアのスパイ』だと、数年前から言われているのですから。
自分たちの情報機関を売り物にする国は一つもない。ただ、実際にアメリカ当局へ引き渡されるのは、決して起きてほしいとは思いません。これが私の自由と私の生活を脅かすのは明らかです。もし、私が米国に強制的に送られれば人権問題になる。私は大統領批判を行なっていません。憲法に反する政策に反対しているまでです。偉大な米国を再び取り戻したいのです。」



スノーデン氏のクチェレナロシア人弁護士
「ロシアがスノーデンを米国に引き渡したがっていることを示すシグナルは全くない。本人は米国に帰りたがっており、米大統領が本人を訴えないことを希望している。近く彼は、ロシア国籍取得問題を提起できるが、その決定を下すのは他ならぬ彼自身である。ロシアの法律に従い、請求人は、国籍取得のため、居住許可を得てからロシア領内に公式的に少なくとも5年居住する必要がある。」


バーニー・サンダース上院議員 2016年大統領選候補者
「スノーデンは『NSAがいかに大規模な監視プログラムを濫用し、市民の憲法上の権利を侵害してきたのか』を国民が知るための手助けをした。彼は法を犯したので、何らかの罰が与えられるべきだ。しかし彼は米国の市民を『教育』する重要な役割を果たした人物でもある。内部告発を行う際にスノーデンが携わった違法行為についても、長い禁固刑や永久国外追放を課さないための措置が必要だ。スノーデンが亡命先のロシアから無事に米国へ帰れるよう何らかの措置を見出してほしい。





トランプ米大統領についての言及

スノーデン氏
より良い世界を望むならば、オバマ大統領のような政治家に期待してはいけない。そして、ドナルド・トランプのような政治家を恐れてもいけない。アメリカ国内で「反トランプ」を訴えるデモ活動などが行われている現状を憂いつつ、「トランプの大統領就任を阻止しようとするのではなく、すべての人がどこにいても自分の権利を守れるようにするにはどうすればよいかについて思いをはせるべきです。トランプ氏がプーチン大統領と良い関係になっても気にしません。それは十分ありえることです。プーチン大統領は『ロシアは人権を尊重する』とカメラの前で話した通り、前言を撤回して強制送還に応じるとは心配していません。
多くの人が私にこう聞く。トランプが『プレゼントとしてこの男を渡してくれないかい』と言って(トランプとプーチンの間に)何らかの取引が行われるのではないかと。私には、そんなことが起きるのかどうかはわかりません。起きる可能性はあるのか? それはあるでしょう。私はそれに戦々恐々としているのか? いいえ。なぜなら私は自分がした決断に満足していています。正しいことをしたとわかっているのです。



告発、暴露の目的

スノーデン氏
「もちろん、自分に関することがどうなるのかというのは心配ですけど、これは全体からすれば一番重要度の低い部分で、私ではなく私たちに関する部分では私たちは広範な社会問題に集中せねばならないのです。個々のケースではなくて。
オバマ大統領がかつて自分の選挙戦で国内の大規模な追跡調査を終わらせると公約したものの、それを守らなかった。私が最も反対することは各人の動きを追う大規模な追跡調査、無秩序な監視です。司法機関が認める目的を持った追跡というのは、自由な社会に住む何者の人権も侵害することなく追跡する目的を遂行する上で最も介入度の低い手段です。
結局、プライバシーとは、あなたが公開したくないことは公開しなくていい権利、あなた自身である権利だと思う。無制限の監視ではプライバシーは社会のものになり、人権侵害の問題に行き着く。政府の方針に任せるのでなく、市民が社会の主役となり、監視のリスクを議論すべきです。

父も祖父も、政府や軍で働いていたので、国家に貢献するのは当たり前と思って育ち、政府を疑うなど思いもよらなかった。アメリカの二大情報機関、CIAとNSA(国家安全保障局)の職員となり、市民のすべての通信を傍受し監視できるNSAの実態を知って、国民の総意で成り立つはずの民主主義国アメリカが、国民をスパイするとはどういうことなのか。
 9.11以降、テロ対策やセキュリティの名目で監視が強化され、“隠すことや悪いことをしていなければ、怖れる必要はないでしょう”と、政府は説明して、私たちにプライバシーを差し出せというわけですが、結果、テロに関係ないであろう弁護士やジャーナリスト、人権活動家、さらにドイツのメルケル首相までが盗聴の対象になっている。メルケル首相への人権侵害は大変なスキャンダルになりましたが、ドイツ人8,000万人への人権侵害はニュースにもなりません。NSAは大手IT企業のサーバーに直接アクセスできるので、ネットで誰が何を検索したか、携帯で誰と話し、どこへ移動したか、すべてのデータが蓄積され、無差別の監視が可能です。
 NSAはまだ問題を解決できていません。調査はいまだにおざなりで、情報はいまだにだだ漏れです。自分たちが何をしてきたのか、これから何をすればいいのかもまったくわかっていません。だとしたら、わたしたち国民が、自分の生活のありとあらゆる情報と記録をNSAに委ねることなどどうしてできるでしょうか。
 賛成か反対か、どちらが多いかは世論調査次第です。でも、単にプリズム計画(グーグル、マイクロソフト、ヤフーなどの企業の利用者データを政府機関が収集することを認めた監視プログラム)の存在を世間に知らせるべきだというわたしの決意をどう思うかという質問では、米国人の55%が賛成と答えています。『スノーデンは極悪人だ』と1年間も政府が宣伝してきたことを思えば、これはすごい数字ですよ。


「公正な裁判が保証されるなら、喜んでアメリカに戻ります。正しい目的にかなうならば喜んで刑務所に入ろうと政府に伝えました。自分のことより国のほうが大切です。しかし、どれほどの見返りがあろうと、政治的な脅威として扱われたり自分たちの権利のために立ち上がる市民を威嚇したりする法律を許すことはできないし、それに協力するつもりもありません。


「政府がわれわれ国民の利益を代表しようとしないのなら、われわれ自身がその利益を守ろうとするでしょう。内部告発はそのための昔からあるひとつの手段にほかなりません。その一歩を踏み出すのは本当につらいことです。信念に従うというだけではなく、信念に従って、わざわざ自分の人生を棒に振ろうというのですから。」
政府の不正を正すための唯一の方法はそれを公表することだと考えている。しかし私には発言できる上院委員会も、議会への証人召喚権もない。だから極秘のうちに行動を起こさなければならなりませんでした。そして私はそのための訓練を十分に受けていました。


「いつかわたしはミスを犯し、捕らえられるでしょう。いつそうなってもおかしくありません。」



NSA職員としてのスノーデン氏の日本滞在時代

NSAの仕事を請け負うコンピュータ会社デルの社員として2009年に来日し、東京都福生市で2年間暮らしていた。勤務先は、近くの米空軍横田基地内にある日本のNSA本部。NSAは米国防長官が直轄する、信号諜報と防諜の政府機関だが、世界中の情報通信産業と密接な協力関係を築いている。デルもその一つで、米国のスパイ活動はこうした下請け企業を隠れみのにしている。

米国の軍産複合体は、いまやIT企業に広く浸透し、多くの技術が莫大な予算を得て軍事用に開発され、商用に転化されている。NSAはテロ対策を名目にブッシュ政権から秘密裏に権限を与えられ、大量監視システムを発達させていった。
スノーデンが働くNSAビルには、日本側の「パートナーたち」も訪れ、自分たちの欲しい情報を提供してくれるようNSAに頼んでいた。が、NSAは日本の法律が政府による市民へのスパイ活動を認めていないことを理由に情報提供を拒み、逆に、米国と秘密を共有できるよう日本の法律の変更を促した。

スノーデン氏
「これはNSAが外国政府に圧力をかける常套手段です。自分たちはすでに諜報活動を実施していて、有用な情報が取れたが、法的な後ろ盾がなければ継続できない、と外国政府に告げる。これを合法化する法律ができれば、もっと機密性の高い情報も共有できると持ちかけられれば、相手国の諜報関係者も情報が欲しいと思うようになる。こうして国の秘密は増殖し、民主主義を腐敗させていく……。」


日本への警告

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「日本で近年成立した(特定)秘密保護法は、実はアメリカがデザインしたものです。米政府が日本政府を盗聴していたというのは、ショックな話でした。日本は米国の言うことはほとんどなんでも聞いてくれる、信じられないほど協力的な国。今では平和主義の憲法を書き換えてまで、戦闘に加わろうとしているでしょう? そこまでしてくれる相手を、どうして入念にスパイするのか? まったくバカげています。
多くの場合、最大手の通信会社が最も密接に政府に協力しています。それがその企業が最大手に成長した理由であり、法的な規制を回避して許認可を得る手段でもあるわけです。つまり通信領域や事業を拡大したい企業側に経済的インセンティブがはたらく。企業がNSAの目的を知らないはずはありません。
 もし、日本の企業が日本の諜報機関に協力していないとしたら驚きですね。というのは、世界中の諜報機関は同手法で得た情報を他国と交換する。まるで野球カードのように。手法は年々攻撃的になり、最初はテロ防止に限定されていたはずの目的も拡大している。交換されているのは、実は人々のいのちなのです。
 僕が日本で得た印象は、米政府は日本政府にこうしたトレードに参加するよう圧力をかけていたし、日本の諜報機関も参加したがっていた。が、慎重だった。それは法律の縛りがあったからではないでしょうか。その後、日本の監視法制が拡大していることを、僕は本気で心配しています。
日本政府は米国の監視システムの被害者でありながら、今後、特定秘密保護法によって米国の世界監視体制を守る同調者として、日本で暮らす人々の通信データを横流しする共犯者、加害者としての性格を強めていくことを心配しています。」


ターゲット・トーキョー NSA大規模盗聴事件

NSAが少なくとも第一次安倍内閣時から内閣府、経済産業省、財務省、日銀、同職員の自宅、三菱商事の天然ガス部門、三井物産の石油部門などの計35回線の電話を盗聴していた。対象分野は、金融、貿易、エネルギー、環境問題など。米国が表面上は「友好関係」を強調しながら、日本を監視しているのかがわかる。NSAと緊密な協力関係にある英語圏の国々、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダにも一部共有されていた(これらの国々はNSA文書で「ファイブ・アイズ」と呼ばれる。
ターゲット・トーキョーの盗聴経路はわかっていないが、NSAが国際海底ケーブルへの侵入、衛星通信の傍受、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなどインターネット各社への要請によって、世界中のコミュニケーションの「コレクト・イット・オール」(すべて収集する)を目指している。



日本国内にある監視拠点

オーストラリア安全保障研究者 デズモンド・ボールとリチャード・タンター氏
日本の監視拠点は、米海軍横須賀基地(神奈川県)、米空軍三沢基地(青森県)、同横田基地と米大使館(東京都)、米海兵隊キャンプ・ハンセンと米空軍嘉手納基地(沖縄県)で、約1000人が信号諜報に当たっている。このうち米大使館は官庁、国会、首相官邸に近く、NSAの特殊収集部隊が配置されている。米軍基地は戦闘拠点であるだけでなく、監視活動を主要任務としている。


Yahooアカウントは直ちに削除せよ

エドワード・スノーデン氏
「Yahooをお使いですか? Yahooは秘密裏にあなたが昔書いた内容を全部スキャニングしてしまいましたよ。これは法の枠組みを超える行為です。今日にもアカウントを削除してください。」


特殊情報源工作(SSO)

スノーデン氏「今日のスパイ活動の大半であり、問題の核心」

国際ケーブルなどの通信インフラに侵入して情報を盗み出し、主に、米国上陸地点で、ケーブルを通過する大量の情報をNSAのデータベースへと転送する工作を施す。標的にされているのは、政府機関だけではない。「コレクト・イット・オール」はすべての人々の通信を対象にしている。


NSAと大手通信会社の連携

電話もインターネットも大半が民間企業によって運営されている。SSOには企業の協力が欠かせない。NSA文書は、世界中で80社以上との「戦略的パートナーシップ」を築いたと明かす。
米国内ではすでに、大手通信会社のベライゾンやAT&Tがデータ転送システムの構築に協力し、利用者データをNSAに渡してきたことがニューヨーク・タイムズなどによって報じられている。日米間海底ケーブルのひとつ「トランス・パシフィック・オーシャン」の国際共同建設にも、この両社が参加し、米側の上陸地点オレゴン州北部のネドンナ・ビーチの内陸、ヒルズボロに陸揚げ局を設置している。
NSAの最高機密文書に記された情報収集地点(「窒息ポイント」と呼ばれる)のひとつと重なることから、日本からのデータがこの地点で吸い上げられている可能性は高い。中国、台湾、韓国もつなぐこの光ファイバー・ケーブルには、日本からNTTコミュニケーションズが参加。千葉県南房総市に陸揚げ局・新丸山局を設置している。



エドワード・スノーデン氏の経歴

1983年6月21日生まれのエドワード・スノーデンは、NSA本部からほど近いメリーランド州の郊外で育った。父親のロンは下士官から准士官にまで昇進した叩き上げの沿岸警備隊員である。母親のウェンディはボルティモア連邦地方裁判所に勤務し、姉のジェシカはワシントンDCにある連邦司法センターの弁護士となった。

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少年時代のスノーデンは、テレビやスポーツの代わりに読書に没頭した。とりわけ愛読したのはギリシア神話だった。「何時間も我を忘れて夢中になって読みふけったのを覚えています」。神話を読んだことは、倫理的なジレンマも含めて、困難に立ち向かうための人格形成に大きな役割を果たしたとスノーデンは言う。「どうしたら問題を認識できるのか、それを考え始めたのはそのころでした。個人の判断基準とは、その問題にいかにして取り組み、向き合うかだと思います」

情報をリークしたのは自分であるとスノーデンが明かすと、まもなくスノーデンが高校を中退していることを無数のメディアが話題にした。スノーデンは単なる怠け者の落ちこぼれにすぎないとほのめかしたのだ。だが約9カ月で高校を中退したのは怠惰からではなく、単核球症の発症が原因だった。スノーデンは留年ではなくコミュニティカレッジへの編入を選んだ。コンピューターは子どものころから好きだったが、このときさらにコンピューター熱が高じ、クラスメイトが経営するテック企業で働きはじめた。

2001年9月11日、2機の飛行機が世界貿易センタービルに突っ込んだとき、スノーデンは通勤の途中だった。「クルマでオフィスへ向かっているとき、最初の飛行機が激突したとラジオが伝えるのを聞きました」。公共心あふれる多くの米国人と同様、スノーデンもまたこの事件に深く傷ついた。2004年春、ファルージャの戦闘にともないイラクでの地上戦が激化したときには陸軍特殊部隊に志願している。

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特殊部隊には特に魅力を感じた、とスノーデンは言う。入隊すれば外国語が学べたからだ。スノーデンは優秀な成績で適性検査をパスし、入隊を認められた。だがそこで要求される身体能力はスノーデンの限界を超えていた。訓練中の事故で両脚を骨折し、数カ月後に除隊を余儀なくされた。
陸軍除隊後、スノーデンはある極秘の政府機関に職を得る。そこでは高度な機密情報取り扱い許可の資格を取ることが要求された。嘘発見器テストや厳密な身元調査をパスしたスノーデンは、このとき自分でも気づかないうちに、情報機関という秘密の業界に足を踏み入れていた。情報機関専門の就職説明会に参加し、CIAにスカウトされてヴァージニア州ラングレーのCIA本部にある国際通信部門に配属される。コンピューター関連の問題に当たる部署だ。スノーデンにとっては16歳からふれてきたネットワークやエンジニアリングの仕事の延長のようなものだった。
「偽装サイトなど、あらゆる秘密情報収集サイトがCIA本部に接続されていました。わたしともうひとりの男とふたりで夜間業務を担当しました」。だが、スノーデンはすぐにCIAのとんでもない秘密に気づいた。最先端のハイテク情報機関というイメージとは裏腹に、CIAのテクノロジーは時代遅れもいいところだったのだ。

コンピューター関連のトップチームの幹部候補として、スノーデンは自分がCIA直属の非公開のテクノロジー専門家養成学校に入る資格があると考えた。その学校はあるホテルの中にあり、スノーデンはそこで生活しながらフルタイムで学び、訓練を積んだ。訓練を終えた2007年3月、スノーデンはスイスのジュネーヴに向かった。CIAはスイス銀行の秘密情報を探っていたのだ。米国国連政府代表部に配属されたスノーデンは、外交官パスポートと、レマン湖のほとりに建つベッドルーム4つのマンションと、見栄えのいい表向きの職を与えられた。
ジュネーヴで、スノーデンはCIA職員が現場で見せるモラルの低劣さを初めて目の当たりにした。諜報員は集めた情報提供者の数に基づいて評価される。そのためCIA職員は情報の質はお構いなしに、手当たり次第に証言者にサインさせようとして足を引っ張り合っていた。ターゲットを刑務所行きになるまで泥酔させ、保釈金を肩代わりして言いなりにさせることもあった。「情報提供者を集めるために相当あくどいこともしていました。彼らはCIAに非常に悪い印象をもったでしょうし、もしこうしたことが明かされたら、CIAの国内の評価は地に落ちるでしょう。それでもやめようとしないのです。それが機能しているからという理由で」
コンピューターシステムとネットワーク運用の保守という仕事柄、スノーデンはそれまで以上に戦争遂行についての情報にアクセスできるようになった。「ブッシュ政権の時代、対テロ戦争は深い闇に包まれました。国民を責め苛んでいるのはわれわれでした。令状なしに盗聴をしていたのですから」。
スノーデンは内部告発を考え始める。だが、オバマが大統領に選出されそうなのを見て、一度は思いとどまった。「批判者ですら、オバマが説く価値観には感銘を受け、期待していました。オバマはこう言っていました。国民の権利を犠牲にしてはならないと。テロリストの検挙率をほんの数パーセント上げるという目的と引き換えに、自分たちを見失ってはならないと」。だが、やがてオバマはその美辞麗句をかなぐり捨て、スノーデンは深い幻滅を味わった。「公約を守らなかっただけではありません。それを丸ごと否定したのです。政府は別の方向に進んでいました。公約に基づいて選出される政治家が、実は甘い餌で有権者を釣っているだけなどということがありうるなら、社会は、民主主義は、一体どうなってしまうのでしょうか」
この幻滅は数年後にさらに深まることになる。2010年には、スノーデンはCIAからNSAに転職し、NSAの主要請負業者であるデルとの共同業務における技術担当者として日本に赴任していた。9.11事件以降、莫大な予算が諜報に注ぎ込まれ、NSAの業務の多くはデルやブーズ・アレン・ハミルトンのような軍需企業に外注されるようになった。日本への赴任はスノーデンにとって、このうえなく魅力的だった。少年のころから日本に行ってみたかったのだ。スノーデンは東京郊外にある横田空軍基地に勤務し、軍の幹部や将校に、いかにして中国のハッカーからネットワークを守るかを講義した。
だが、スノーデンの幻滅は深まるばかりだった。諜報員たちが銀行員を酒に酔わせ強引に情報を引き出しているのを知ったときには、いたたまれない気持ちになった。標的殺害や大規模監視についての情報も得た。それらはすべて世界中のNSA施設のモニターに送られていた。スノーデンはやがて、軍やCIAの無人機がひそかに人々を襲撃し物言わぬ肉片に変えているのを目の当たりにする。また、NSAの監視能力がどれほど広範囲に及んでいるかも認識しつつあった。携帯電話、パソコンその他、電子機器一つひとつに付された個体識別符号であるMACアドレスを監視して、都市の住人一人ひとりの行動を追跡することが可能なのだ。

米国の情報作戦に対するスノーデンの信頼は崩れる一方だったが、皮肉にも職場では頼りになる技術担当者として高く評価されるようになっていた。2011年、スノーデンはメリーランド州に戻り、デルの技術リーダーとしてCIAのアカウントを取得し、約1年をそこで過ごした。
「CIAのCIO(主席情報官)やCTO(最高技術責任者)、その他あらゆる技術部門のトップと話し合ったものです。よく、目下直面している技術的問題についての相談を受けました。その解決策を見つけるのがわたしの仕事でした。」

2012年3月、スノーデンは再び異動を命じられる。ハワイにあるデルの巨大な地下基地の情報共有担当部門に技術リーダーとして勤務し、技術的問題の解決に当たった。総面積23,000平方mの、かつては魚雷の保管所だった、じめじめとしたうすら寒い「トンネル」の中で、NSAの能力と自浄作用の欠如に対するスノーデンの疑念は日に日に深まっていった。
そこで知ったさまざまな事実のなかでも最もショックを受けたのは、NSAがプライベートな通信記録を、メタデータのみならずその内容まで、一切手を加えずにイスラエルの情報機関に渡していたことだった。この種の情報は、氏名や個人を特定できるデータを削除して「最小化」するのが普通である。だがNSAは米国国民の情報に事実上なんのプロテクトもかけていなかったのだ。そこには数百万のアラブ、パレスチナ系米国人のメールや電話の通信記録も含まれる。その記録に基づいて、イスラエル占領下のパレスチナに住む彼らの親類縁者が攻撃の標的になりかねない。
もうひとつ、厄介な事実が判明した。NSAがポルノサイト閲覧記録を監視しているという、NSA長官のキース・アレクサンダーのメモが発見されたのだ。これは、テロ計画の容疑で逮捕できない政府批判者に対して、このような「個人的な弱み」を握って、NSAが社会的地位の破壊を目論むかもしれないということだ。スノーデンはこのメモに驚愕した。
「かつてFBIはマーティン・ルーサー・キング牧師を、不倫をネタに自殺に追い込もうとしました。1960年代だってそのような行為は不適切だと言われていたのに、なぜいま、われわれは同じことをしているのでしょう。なぜこんなことにいつまでも関わり続けなければならないのでしょうか。」



CIAの準軍事部門

オバマ政権下では、アフガニスタン、パキスタンに対する政策の優先順位が上がったこともあり、CIAの無人機攻撃は劇的に増加。CIAはこの無人機攻撃の標的に関するインテリジェンスを集め、アルカイダやタリバン幹部の隠れ家を突き止めるため、パキスタンに民間の契約スパイを無数に送りこんで諜報活動を展開した。これによって2011年5月、ウサマ・ビンラディンの居場所を突き止め、殺害に至った。
オバマ政権は、最近、静かにこうした「秘密部隊」を運用した「見えない戦争」を拡大させている。秘密部隊とは、米国のインテリジェンス・コミュニティの中核的存在であるCIAや、米軍の中でもオバマ大統領がもっともお気に入りの特殊作戦部隊のことである。
 戦争に関する政策を立案し、実施するのは国防総省の仕事であり、国防総省にも情報収集・分析を担うセクションがある。しかし、政策を立案している官庁は、自分たちの政策に都合のよい情報を大統領に提示する傾向がある。そこで大統領は、政策決定を下す上で客観的なインテリジェンスを必要とし、そのために「独立した機関」としてCIAを設立したのである。だからこれまでCIAの情報分析は国防総省とは異なり、両者は対立することが常だった。

 といってもCIAにも準軍事部門があり、テロリストや反乱勢力を密かに暗殺したり、米国の脅威となる政権を転覆させるために反政府勢力(IS含む)を密かに支援したり、そのための軍事訓練を提供したり、といったいわゆる秘密工作を行うこともあった。
 しかし、これはあくまで特殊な例であり、秘密工作を日常の活動として行ってきたわけではなかった。911テロ以降の対テロ戦争で、CIAはプレデターという無人機を使ったミサイル攻撃と、対テロ追撃チームという特殊作戦チームによる急襲攻撃という二つの軍事攻撃を自ら実施する戦闘集団となり、従来の情報機関としての役割から大きな変貌を遂げている。

  • 最終更新:2017-02-19 01:51:30

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